エレクトロニカ/音響シーンからのフリーフォークへの回答とも言うべき、ノスタルジック・プロセッシング・フォークサウンド。
Out Hud 、Pan American、Lowなどの輩出でも有名なアメリカのレーベルkrankyからデビューを果たし、2007年spekkからリリースされたダテトモヨシとのユニットOpitopeのアルバム『Hau』も高い評価を集めているChihei Hatakeyamaによるソロアルバム第二弾。
シンセなどは用いずに全ての音を生楽器からプログラミングし、制作された本作。ギター、アコーディオン、カリンバ、バイオリン、三味線、ヴィブラフォン、他、椅子や自転車の空気入れなどをも演奏し、身近な日常の風景の中に鳴るフィールドレコーディング音を織り交ぜながら紡ぎ出された至極美しセピア色の音像群。
1white mountain
2bird above the ocean
3chair and acoustic guitar
4light of the sun
5illusion of memory Ⅰ
6illusion of memory Ⅱ
7illusion of memory Ⅲ
8quiet morning
9dedication
収録時間:約39分
ライナーノーツ:ASUNA(嵐直之)
2008年の来日公演でのライブパフォーマンスが話題になったハニー・オーウェンズによるユニットのヴァレーやスター・オブ・ザ・リド、オーティス ティック・ドーターズといった最近のリリースもさることながら、その内省的な雰囲気の強固なレーベルカラーによって90年半ばより人気を集める米 krankyの唯一の日本人アーティストとして知られる畠山地平。彼のファースト・アルバム"Minima Moralia"に続くセカンド・アルバム"Dedication"がmagic book recordsより発売される。 畠山は、ジョン・ヒューダックやウィリアム・バシンスキなど多数のアーティストをリリースするspekkよりアルバムをリリースしているユニットの Opitopeにて伊達伯欣とともに活動している。彼らの音楽制作における特徴は、生楽器のデジタルプロセッシングとラップトップベースの即興演奏とい う点にあり、そんな事は今となってはもはや特筆すべき点ではないのだが、その演奏での質においては、細かい音程や音色、出音の緻密さという点で一つ抜き ん出た演奏力(?)を持っている。それらは彼らが主催するセッションイベントや、普段から自室スタジオで夜な夜な繰り広げられる数々のセッションによっ て培われたものだろう(実際彼らは何百時間にも及ぶセッションの録音ファイルをストックしている)。
しかしながら、この"Dedication"での畠山はこれまでとは違うアプローチから音源を制作している。自室の窓を空け放って独りつま弾くアコー スティックギターやカリンバ、引っ越しによる環境音の変化やそれに伴う日常生活の具体音(自転車の空気入れから椅子の軋みまで)、そしてセッション後に 帰宅する伊達の足音・・・。これまで以上にパーソナルな雰囲気の楽曲群はたくさんの思い出や郷愁のようなものを思い起こさせる。そういった牧歌的な音楽 は、現在ではしばしば揶揄の対称となることもあるが、先端的で批評性のある音楽をやっていると自負しているような狭義の即興音楽や実験音楽のほとんどが 既に形骸化しているか人真似でしかないものばかりで辟易してしまうこの現状において、そういった対角線を引く事でしか自分の立ち位置を確認できないとい うことは、既にそれ自体が脆弱であることの現れではないだろうか。この"Dedication"は決して自己憐憫に陥るような軟弱なものではない。常に ファイルを更新して新しい音を生み出し続けようとする彼の姿勢もそこには垣間見えるだろう。
もうかれこれ数年前、古館徹夫や渡邊ゆりひとが出演していたイベントにて、畠山のOpitope以前のユニットであるValyushkaのライブを初めてみたとき、彼が被っていた帽子の雰囲気からか、寡黙になった『駅馬車』のジョン・キャラダインのように見えて、なんとなく怖い人だなぁーと思って緊 張していたら、会って話し出すと急にハニカミ(?!)的な笑顔になるのが印象的で、なぜかこのアルバムを聴きながらそれを思いだしました。
MABR011/MOKUME018
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